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硫酸ジメチルは、吸い込んだだけで命を落とす可能性がある猛毒の化学物質であるということをまず知っておいてほしい。
埼玉県の春日部労働基準監督署は18日、労働安全衛生法違反の疑いで、東京都中央区日本橋の化学工業「関東化学」と、同社取締役工場長の60代男性をさいたま地検に書類送検した。
引用元: 20代男性が死亡…防毒マスクせず化学物質を扱う(Yahoo!ニュース/埼玉新聞)
詳しい情報は以下をご覧ください。
硫酸ジメチルって何?聞き慣れない猛毒物質の正体
そもそも硫酸ジメチルはどんな物質?化学式や見た目は?
硫酸ジメチルは、化学式(CH3O)2SO2で表される化合物で、硫酸のジメチルエステルにあたります。
見た目は無色の油状液体で、タマネギに似た弱い悪臭があるのが特徴です。
工業的には強力なメチル化剤として使われていて、アルコールをメチルエーテルに変換する有機合成などで広く利用されています。
1800年代から存在が知られている古い化合物ですが、その毒性の高さゆえに現在では代替品への置き換えが進んでいます。
ただし反応効率が高く入手も容易なため、現場によってはまだ使われているのが実情です。
「遅延毒性」がとにかく怖い…自覚症状なく致命量に達する
硫酸ジメチルのもっとも恐ろしい特性、それが「遅延毒性」です。
ふつう、危険な薬品に触れたり吸い込んだりすれば、すぐに痛みや異変を感じるものですよね。
ところが硫酸ジメチルは違います。
つまり「気づいたときにはもう手遅れ」という最悪のパターンに陥りやすいのです。
皮膚、粘膜、消化管を通して体内に吸収され、重症化すると肺障害による呼吸困難、肺炎症状、さらには腎障害や溶血まで引き起こします。
こうした情報を知ると、今回の事故で20代男性が被曝後すぐではなく数日後に亡くなった理由が見えてきます。
IARCグループ2A…発がん性も指摘される危険物質
毒性だけではありません。
硫酸ジメチルは国際がん研究機関(IARC)によってグループ2A「人に対しておそらく発がん性がある」に分類されています。
硫酸ジメチルの毒性は非常に強く、96 ppm(500 mg/m3)に10 分間の暴露で死に至る。本物質は眼、皮膚、粘膜に対し強い刺激や腐食作用を有し、眼、皮膚、粘膜に付着した場合、局所に激しい炎症が起り、発赤、水疱、浮腫を生じる。
引用元: 既存化学物質安全性(ハザード)評価シート(化学物質評価研究機構)
たった10分の曝露で死に至るという数値は、この物質がいかに人体に危険かを物語っています。
この動画では化学物質による労働災害の防止を解説。
ここまで読んで「怖い物質だな」と思った方、その感覚は正しいです。
関東化学が書類送検…20代社員はなぜ命を落としたのか
夜勤中にたった1人で硫酸ジメチルを扱っていた20代男性
事故が起きたのは2024年6月23日の夜勤中のことでした。
場所は埼玉県草加市にある関東化学の草加工場。
20代の男性社員がたった1人で硫酸ジメチルを取り扱う作業を行っていたのです。
先ほど解説した「遅延毒性」がまさに最悪の形で現実になってしまったケースです。
防毒マスクなし・保護眼鏡なし…ゴム手袋だけだった
さらに衝撃的なのは、男性の装備です。
保護眼鏡も防毒マスクも着用しておらず、ゴム手袋のみで作業していたという事実。
硫酸ジメチルは揮発性があり、蒸気を吸い込むだけで重篤な被害を受けます。
同労基署によると、男性は保護眼鏡や防毒マスクは着用せずゴム手袋のみで作業し、同日の勤務中に喉や目の痛みなどを訴えて翌朝に救急搬送された。体調は回復せず、7月5日に急性呼吸不全で死亡した。男性は1人で作業をしていたという。
引用元: 20代男性が死亡…防毒マスクせず化学物質を扱う(埼玉新聞)
知れば知るほど、防げたはずの事故だったのではないかという思いが強くなります。
「作業主任者を置かなかった」…これは法律違反
春日部労働基準監督署は2025年3月18日、関東化学と同社取締役工場長(60代男性)を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検しました。
容疑は「特定化学物質を取り扱う作業において、作業主任者を選任していなかった」というもの。
この動画では特定化学物質障害予防規則(特化則)の概要を解説。
もし作業主任者がいれば、ゴム手袋のみで作業するなんて状況は止められたはずです。
SNSでも「なぜこんなことが起きるのか」という声が上がっており、多くの方が注目しているニュースです。
特定化学物質の扱いで守るべき安全対策は?法律ではどうなっている?
労働安全衛生法が定める「作業主任者」の選任義務とは
労働安全衛生法第14条では、特定化学物質を製造・取り扱う作業において、技能講習を修了した作業主任者を必ず選任することが事業者に義務づけられています。
事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任しなければならない。
引用元: 作業主任者(安全衛生キーワード)(厚生労働省・職場のあんぜんサイト)
これは「努力義務」ではなく「義務」です。
つまり違反すれば罰則の対象になります。
防毒マスク・保護眼鏡…猛毒を扱うなら最低限これだけは必要
硫酸ジメチルのような特定化学物質を取り扱う場合、以下の保護具が必要です。
今回の事故では①②が完全に欠落していたことが問題視されています。
「手袋だけしていれば大丈夫」という認識は、揮発性のある猛毒物質においては致命的な間違いなのです。
同じ悲劇を繰り返さないために、私たちが知っておくべきこと
「化学工場の話だから自分には関係ない」と思う方もいるかもしれません。
しかし、特定化学物質は建設現場の溶接作業や塗装作業でも発生するケースがあり、意外と身近に存在しています。
この動画では書類送検につながる労働安全衛生規則の事故報告を解説。
ここまで読んだなら、職場の安全管理について改めて考えてみる良いきっかけになるのではないでしょうか。
まとめ
硫酸ジメチルは、遅延毒性・発がん性・強い腐食性を持つ極めて危険な化学物質です。
今回の関東化学の書類送検は、作業主任者を置かなかったという法律違反が原因でした。
「聞いたことのない化学物質だから」と他人事にせず、こうした情報を知っておくことが、いざというときに自分や大切な人を守ることにつながります。
知らないと損する情報なので、周りの方にもぜひ共有してみてください。

